- 作者: 森岡正博
- 出版社/メーカー: トランスビュー
- 発売日: 2003/10/16
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 63回
- この商品を含むブログ (55件) を見る
著者の問題提起は(ICUに勤務する看護婦(師)の言葉を借りて)、
というものです。つまり、苦痛を避け快楽のみを追い求め、その背後にあるものを考えようとしない人たち*3を大量生産しているのではないか、ということです。確かにそういう一面があるように思われますね。きっとだから本書を読み終えたときに、ドッと疲れに襲われたのでしょう。
で、本書では無痛文明を
「身体の欲望」が「生命のよろこび」を奪い取っていくという仕組みが、社会システムのなかに整然と組み込まれ、社会の隅々にまで張りめぐらされた文明
と定義し、これをあらゆる角度から徹底的に批判していきます。
ただ、本書でも繰り返し語られていますが、この、「無痛文明」との戦いは困難極めるものにならざるを得ないんですな。何しろ、出発点が「身体の欲望」ですから、例えばちょっとでもラクしたいと思った瞬間、無痛文明のなかに絡め取られていくのです。かといって、修行して禁欲的な生活を送る、というどっかの宗教みたいなやり方では、これまたうまくいかない*4ので、結局一人一人が無痛文明の存在を自覚しながら、その内部から自己崩壊させてゆく、という戦略をとらざるを得ないんです。長く、険しい戦いの道ですな。
興味深かったのは、
人は、生きる意味を考えるのを止めることによって、「大人」になっていくのである。
の一文です。なんかのアニメかドラマのネタになりそうだ。っていうか、もう何かであった気がする。
また、無痛文明の解体*5は、将来自分がどうなっているかわからない闇に向かっての営み*6になるであろう、と語っていたのが印象的でした。
まぁ、こういう本はwikipedia:日本十進分類法では哲学の分類になるようで、読んでいてもだんだん頭が痛くなり、こんな気分
になっちゃいますが(なんか最近、ゴキちゃん大活躍だ…)、たまにはこういう本を読んでウンウン悩んでみるのも一興ではないでしょうか。というか、こういうことについて十分考えておかないと、wikipedia:安楽死やwikipedia:尊厳死、またgoogle:news:臓器移植の問題なんかには答えが出せないんじゃないでしょうか。といってる内に、(臓器移植法の)改正案は多数決という必要悪でゴリ押しされてしまったようですが…
ちなみに、著者の森岡氏が主催しているホームページは、LifeStudies.Org/JP 生命学, 生命倫理, 哲学, ジェンダー, 現代思想の論文・エッセイ です。