- 作者: デイヴィッドウォルマン,David Wolman,梶山あゆみ
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2006/07/01
- メディア: 単行本
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ただ、序盤で、利き手というのはその定義が必ずしも明確だとは言えないことに注意が必要なことが語られています。確かにそうですね。一応、エディンバラ利き手テスト(EHI)というものもあるそうですが、これとて所詮自己申告に基づく以上、完璧に判定できる、とは言えないわけですね。一方で、(医療の世界で)手の器用さを測る目的にはペグボードテスト*1なんてのもあるんですが、これだけで利き手を判断するにはチト無理があるわけで、便宜上利き手が右手、というのを、「片手で行う作業の大半で右手を用いるのを好み、(ビンのフタを開ける等)両手を用いる作業では右手が主要な役割を示す。」という風に定義しています(左利きはその逆)。
で、右利きがこんなにまで幅をきかせているのは日本だけか、と思ったら、決してそんなことはなく、キリスト教でも、「主の御手は高く上がり、主の右手は御力を示す。」(詩編118)なんてある訳です。インドでは、左手は
ところで、普通脳の中で言語機能を司る中枢は、右利きの場合99%が左脳にあるそうですが、左利きの場合はこれが70%に下がるんだそうです。ここからして、言語機能と利き手の間には何らかの関係はありそうだ、と慎重に語っています。
著者はいわゆる研究者ではなく、ジャーナリズムの学位を取得されたサイエンス・ライター*3ですから、左利きと手相の関係などという、疑似科学っぽいことにも、「正しいことより間違っていることの方が面白いことは多々ある。」と述べて、首をつっこんでいます。そんな、気取らない様子も、本書を一般の読者にも読みやすくしていると言えるでしょう。
また、最近は「脳のこの部分がこういう機能を司っている。」とか、「右脳を鍛えて…」とかいう話が大流行ですが、そもそも脳の機能というものは(音楽にたとえるなら)ソロというよりオーケストラだから、局所的に捉えて脳の機能を語ってもあまり意味はないのではないか、と、最近の風潮に釘を刺していましたね。脳をコンピュータにたとえるなら、記憶を主に担当するのは確かにメモりチップかもしれないけど、それを統括するメモリコントローラーやCPUもあって初めて「記憶」*4という高度な作業を行える、ということかな?これには僕もうなずかされますね。「脳を鍛えよう」という言には同意できるけど、「右脳を鍛えよう」というのには「左脳はほっといて
また、昔と違い、近年では幼児の利き手を矯正するのは良くない、との認識が広がっていて、それはまぁ好ましいことだとは思いますが、書字についてだけは幼稚園に上がる頃までに右で書くのか左で書くのかは決めておいた方が良いんだそうです。そうじゃないと、脳が混乱して訳わかめになってしまうんだそうですわ。
まぁ、この本が出版されたのは二、三年前です*5から、その後研究がどんな風に広がっているのか、は気になるところではありますが、利き手を巡る(当時までの)議論の流れを知る上では、今でもためになる一冊だと思います。ブルーバックスあたりに収録されれば、もっと気軽に勧められるんだけどなぁ。出版社違うし、無理か。