た-くんの狂人日記

最近はほぼ読書日記

たのしい不便

(また読みかけかよ。>自分 まぁ、今日のは図書館の本なので、期限付き=読まねば、という圧力が強い。*1最後まで読んでから感想を書く方が良いかもしれないが、ちょうどキリが良いので、記憶の新しい内に感想をまとめましょう、と思いまして。続きは結局読まずに返してしまった、というオチもあり得ますがね。)

たのしい不便―大量消費社会を超える

たのしい不便―大量消費社会を超える

発行が2000年6月ですから、今となってはチト古さを感じる本かもしれません。しかしながら、一向に改善する気配の感じられない現代の大量消費社会を考えるなら、本書は”故きを温ねて新しきを知る”書だと思います。
著者が毎日新聞の記者であるから、文章のプロだけあって文もこなれています(確かに、引用部分など一部に難しい表現がないとは言えないが)。少なくとも、http://www.amazon.co.jp/30%E6%97%A5%E9%96%93%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%89%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%83%89%E7%94%9F%E6%B4%BB%E2%80%95%E8%87%AA%E5%88%86%E3%81%AE%E4%BD%93%E3%81%A7%E5%AE%9F%E9%A8%93%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%BF%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F-%E3%83%9E%E3%83%84%E3%83%A2%E3%83%88-%E3%82%B1%E3%82%A4%E3%82%B8/dp/4396612680こんなアホくさい本よっかは数百倍為になるでしょう*2
筆者は、誠実さの概念は「言っていることを行動で裏付けよ。」という信念に従い、以下のような条件で興味深い実験を行いました。本書の第一部は、毎日新聞(西部版)に連載されたその同時進行ルポです。

  • 電車・バスを使わず自転車で(約10km)通勤する。*3
  • 自動販売機でものを買わない。
  • 外食をしない。(昼食は毎日自分で弁当を作る。)
  • エレベーターを使わない。
  • 電気あんかを湯たんぽに切り替える。
  • 季節外れの野菜を食べない。etc....

でも、書き始めると、第一部だけでもマンプクだなぁ。でも書くか。
まず最初にあったのは、「生野菜といえばキュウリとトマト、というのがいかにでっち上げられた根も葉もない概念」か、ということです。いわゆる、「常識」といわれるものの中には、この手の類のことが多いのではないでしょうか。
一方で、ねじりはちまき式のストイックなやり方は、かつての共産主義国家が産んだ模範市民のように、少数の目覚めた人にしか届かず、そうした人々に導かれた社会では窮屈で幸せにはなれない。つまり、「欲しがりません勝つまでは」では結局勝てないで終わってしまう、と。イデオロギーや宗教の信奉者は得てしてこの独善と不寛容のワナに陥ってしまうのです。そこで、本人がたのしいということをキーワードにこの体験を進めていきます。持っているものを全て捨てる必要はなく、伝家の宝刀的にとっておけば良い、と。
で、本書を貫いている思想は、「金銭や欲得のからまないふれあいこそ、人に最大の満足感を与える要素ではないだろうか?」という問いかけかなぁ、と思います。マイケル・アーガイル氏は、著書「幸福の心理学」の中で、

人の豊かさは、仕事・交際・余暇で規定される。

と述べているそうです。*4
そして、次にハッとしたのは、「暑いのが夏なら、クーラーがギンギンに効いている社会の中で暮らしていた筆者は、本当の夏を味わってなかったのかもしれない」という問いかけでした。これは裏を返せば、「暖房が効きすぎている社会で暮らしている現代の北海道人は、本当の冬を味わえていないのではないか?」ということになります。こっちはもう雪がちらつくので、つい暖房のスイッチに手が伸びそうになるんだけど、もうちょっと考えた方が良いかもしれないな、と思いました。
また、ジャン・ボードリヤールの「消費社会の神話と構造」の中の文章、

人びとはけっしてモノ自体を(その使用価値において)消費することはない。理想的な準拠としてとらえられた自己の集団への所属を示すために、あるいは高い地位の集団をめざして自己の集団から抜け出すために、人びとは自分を他者と区別する記号として(最も広い意味での)モノを常に操作している。

との一節も紹介していました。
また、本当の快楽とは不快との境界に存在するのでは無かろうか、という問いかけも新鮮でしたね。
という具合に不便を勧めてはいるのですが、一方で不便さの負の側面も指摘していて、それは不便は痛いのです。まぁでも、死なない程度の痛い思いは多少はした方が良いのかも、と一度死にかけた僕は(無責任に)思います。
で、第一部のまとめとしては、「現代人がこれほどまでに(自然に対して?)不遜でいられるのは、「生きるのはこんなに手間暇のかかることなんだ。」と実感できていないからじゃないか、と問いかけていました。一方で、不便を快楽にするコツは、結果ではなく過程を楽しむことだ、と第一部を締めくくっていました。


最後に、あとがきを眺めていたら、この筆者も大きな交通事故で瀕死の重傷を負ったそうです。でも、支えてくれる奥様がいたから、立ち直ることが出来たそうです。やっぱり、支えてくれる人は大事ですね。

*1:だって、その図書館の返却遅延のペナルティが、一冊に付き三日間貸し出し停止、という、かなりキツいものですから。

*2:図書館には、上の本と同じような場所にありました。なんだかなぁ。

*3:雨の日はカッパを着て。

*4:なんかオイラは、これらの要素は全滅のような気もする。